■2005/11/17 (木) 要件事実論(1)

 司法研修所に入ると,民事系の科目について要件事実論を学ばなければならない。要件事実論は,要するに民法の理解を,立体化して民事訴訟法の攻撃防御方法の構造(裁判規範としての民法)に組み立て直すものである。
 例えば,売買契約に基づく代金支払請求をするためには,要件事実として,財産権移転の約束と代金支払いの約束を主張証明すれば十分であり(民法555条・「Xは,Yに対し,平成17年11月17日,絵画を代金50万円で売った。」というように表現される),代金支払い期限の合意(被告の抗弁である。)や,絵画の所有権(他人物売買も有効であるので不要。)や引渡の有無(同時履行の抗弁として被告権利主張を待って主張すれば足りる。)については主張する必要はないというものである。
 民法の実体的要件と要件事実とでは,主張立証責任を考慮して,ずれる場合があったり,請求原因と抗弁に分かれてしまうことがあったりして,これをマスターすることはなかなか容易ではない。今までやってきた学説中心の民法の勉強が無駄であったとも思ったこともあり,最初から要件事実教育ををやっていれば良かったとも考えることもあった。
 しかしながら,要件事実論はそもそも「民事裁判の技術的なスキル」であり,その理解には民事訴訟法の理解が不可欠なのであり,また従来の民法の理解を前提として少し修正するものと考えるべき程度のものであり,そうだとすると,司法研修所法科大学院で学習するのが妥当ということになろう。